2011年5月24日火曜日

「ブロークバック・マウンテン」 *ただひとつ輝く場所* ①



はじめは「ウッドストックがやってくる」について書けたらと思っていた。あの伝説の野外コンサートの舞台裏を描いた映画というので食指が動いたが、結果は軽く失望。それでも監督のアン・リーが気になり、情報を探す中で目に留まったのが「ブロークバック・マウンテン」だ。日本での公開は2006年、そういえばこのカウボーイ二人のポスターを見た記憶がある。5年遅れの出会いとなった。                                         
 1963年、ワイオミング。牧場主のもとへ仕事を求めてやって来たイニスは、そこでジャッ クと出会う。二人とも本物のカウボーイ、といえば聞こえは良いが定職を持たない貧しい 季節労働者だ。二人はひと夏のあいだ、山で放牧する羊の番をすることになる。

目を見張る雄大で美しい山の自然。その懐で、馬に跨った二人が並んで尾根を行き、川を渡り、羊の群れを追う光景は、まるで往年の西部劇のようだ。
無骨で朴訥としたイニスは細々ながら金を貯め、この仕事を終えて山を降りたら結婚することになっている。貧しくとも妻と子のいる幸せな暮らしを思い描いていたことだろう。一方のジャックは陽気ではあるが、ロデオで日銭稼ぎをしながらどこか風まかせで、地に足の着かない暮らしをしてきた。そんな二人が8月でも雪の積もる日がある山の上で、野営しながら厳しい環境で仕事をするうちに、しだいにうちとけて行く。

ある夜、外で寒さに震えるイニスをジャックはテントに招きいれる。それこそ運命の一夜だった。ジャックが誘いをかけほとんど無言のまま、二人は性関係に至る。それは唐突で生々しくもあったが、なぜか不自然とは感じなかった。ジャックは口にこそ出さないが明らかに、自分がゲイ(正確にはゲイ寄りのバイ?)だと自覚しており、それなりの経験もあったのだろう。ではイニスは?これまでの会話の中に「おまえは罪深いだろうが、俺の身はまだ清いぜ」という軽口のようなイニスのセリフがあった。経験がまだ無いことを意味しているとしたら、彼の初体験の相手はジャックということになるが、、、

翌朝、あれは一度限りのことだと言いながら、夜にはまた抱き合って眠る二人。
けれどもこの仕事が済めば、蜜月も終わりだ。イニスの後姿を見送る、ジャックのまなざしがせつない。         

この映画は男性同士の恋愛をごく自然に描いているように見え、違和感がない。類型的なゲイ“らしさ”の誇張はまるで無い。静かで淡々としているが、口数少ない登場人物たちの心情がリアルに伝わってくる感じだ。こういう映画を観たのは初めてかもしれない。
       ・・・・・明日も続きます・・・・・         矢車菊 香)